バーの音 第二話
私がモンドバーで修行を始めた1990年代前半の銀座はまだバブルだったような気がします。
経済学的にバブル崩壊は1991年となっているようですが、夜の銀座で実感出来たのはそれよりも数年後でした。
毎夜、銀座のクラブは大賑わい。週末ともなると深夜のモンドバーはクラブの女性とお客様で怒涛のような忙しさでした。
銀座でバーテンダー見習いとして勤めていた私ですが、銀座のクラブは近くてとても遠いところ。
逆立ちしても飲みに行けるところではありません。
ただ、めったにはありませんが、クラブへお客様へのお届けものなどがあり、更に「一杯飲んでいかないか?」と声をかけて頂けることはありました。
天井にはシャンデリア、着物やドレスのキラキラした女性達、ただ者ではなさそうなお客様達、そしてテーブルにある高級コニャックブランデー(当時ボトルキープの主流はブランデーでした)は惜しげもなくグラスに注がれていました。
いわゆる大箱(おおばこ)と言われるサイズの大きいクラブにはグランドピアノが置いてあり、生演奏がより別世界を演出しているようでした。
こんなチャンスはめったにない。そう思いながらも、背もたれから大分離れたソファーの先端に座り、あまりにも場違いな更に極度の緊張の中で、急ぎ水割りを飲み干し店に戻った記憶があります。
大人の会話と女性の笑い声、その隙間から聴こえるグランドピアノの音。
バーの音とは少し違う、私にとっての「銀座の音」かもしれません。
現在グランドピアノを置いているクラブは銀座でも少なくなったと聞いています。
カモメセラーでは音大卒の新入社員川越美輝さんによるシンセサイザーピアノ音での生演奏をやっています。
曲は昭和歌謡や同時期のアメリカンポップス、ジブリ、ジャズなど。
30年前に聞いた「銀座の音」とは少し違うかもしれませんが、楽しげなお客様会話の隙間から、シンセサイザーとフライパンの音が聞こえます。
「カモメ酒場の音」もなかなかですよ!
第三話に続く